映画ができるまでの流れを「おくりびと」の助監督が『企画成立から脚本づくり』を軸に解説

映画ファンの方々、『映画のたからばこ』読者の皆さん、初めまして。
猫好きで映画監督&ライターのsela(仮名)です。

とつぜんですが皆さん、『映画ってどうやって作られるんだろうか?』って思ったことはありませんか?

今回は、少し前の作品になってしまいますが、ボクがチーフ助監督として関わらせていただいた第81回米国アカデミー賞外国語映画賞授賞の栄冠に輝いた滝田洋二郎監督作品『おくりびと』を例にお話しますね。

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どうやって作品完成に至ったかを『企画成立から脚本づくり』軸に、『映画ってこうやって作られていく』という一例をボクが知っている範囲でお話ししましょう。

おおおー!『おくりびと』の裏話かー、楽しみだー!って思いません?え?思わない?ま、いいです。
そういう方はほっときます。
興味ある方だけお読みくださいねー。

あっ、そうそう。
裏話のことは滝田さんには内緒ですよ。

知られたら、「sela(仮名)〜〜!!、お前なにベラベラ喋ってんだー!」。
って怒られちゃいそうですから(笑)。

今回、お話しさせていただこうと思っているボクの視点というのはあくまでも『助監督』という立場からのものです。
→助監督の仕事や役割についてはコチラへ

面白いだけでは映画化できない

まず初めに、『世の中には色々なお話があるのにどうしてこの原作を選んだんだ?どうしてこういう話を映画にしたんだ?』。
ってところが気になる点であると思います。

さて、どうしてなんでしょ?ボクにもわかりません。
「え?おいおい、頼むぜ。あんた、それを書くって言ってたじゃないか!?」

はっ!そうでした!す、すみませんっ!!
気を取り直して。
実は、これとても複雑で簡単なのです。

「複雑で簡単って……わけわかんないよ!」
ですよねー。
でも、その通りなんです。

うーん、そう言ってても始まりませんねー。
わかりました!わかる範囲で書きましょう。

簡単な理由

どんなお話でも、映画を作りたいと思っている誰かが、それを「面白い!」と思えることが大切です。

おもしろくなければ誰も観ませんからね。
だからココ大事。
これが簡単だという理由です。

複雑な理由

一方、複雑だと言うのは、商業映画の製作というのは、とてもお金のかかることです。
だから生半可な気持ちで、作品製作にGOを出せないという側面を持ち合わせています。

『おくりびと』みたいな特別大掛かりなCGやアクションのない作品でも、正確な金額は聞きませんでしたが、現場プロデューサーは「7億円くらいの現場製作費がかかった」と言ってました。
もちろん、宣伝費などは別です。

ハリウッド大作に比べれば「たかが7億円」と思われるかもしれませんが、冷静に考えてください。
7億円あったらビルの二つや三つ建ってしまうお金ですよ?そりゃー大変なお金です。

お金を出す側にしてみれば、失敗できないのです。
だから、ただ「おもしろい」だけでは基本的には企画は成立しないわけです。

「おもしろい」と思ったことを、どうやったら商業ベースに乗せることができるかを考えなくてはならないのです。

  • 出演するキャストだったり
  • 確実にヒットする作品を作っている監督だったり
  • 時代の流行だったり
  • はたまたそれ以外の付加価値だったり

付加価値によって、お金を出す側が納得するということが必要なのです。

以上が映画の企画が成立するのは複雑だと言った理由です。

↓「おくりびと」の絵コンテ

『おくりびと』が映画化されるまでの経緯

おもしろいと思ったのはだれ?

ボクは、『おくりびと』では、脚本作成段階から参加させて頂きました。
だから後から聞いた話ですが、もともと主演を務めた本木雅弘さんが、青木新門さんという作家の『納棺夫日記』という半小説、半ドキュメンタリー作品を読んだところからはじまりました。

ボクは、『おくりびと』の仕事を受けた時に『納棺夫日記』を読みました。
確か前半は体験談に基づいた小説、後半はそれを受けての独自の死生観、宗教観が描かれた作品だったと記憶しています。

『納棺夫日記』を読んだ本木さんは、青木新門さんが描いた後半の死生観、宗教観に感銘を受け「『納棺夫日記』を、演じたい」と思いました。
そこで、本木さんは懇意にしている製作会社のプロデューサーに相談しました。

その本を読んだプロデューサーがどう思ったかは、ボクは聞いてないのでわかりません。
本木さんが主演なら商売になると踏んだのか、純粋に面白いと思ったのか、はてさて、もっと違う理由があったのか……。

ともかく、このプロデューサーは本木さんとともに、『納棺夫日記』の映画化に向けて動いたのです。
ここが、『おくりびと』の出発点となったのです。

企画が成立するのは0.3%

「千三つ」という言葉をあるプロデューサーから聞きました。

どういう意味かというと、「千の企画を出しても企画会議で通るのは三つもない」ということです。

この言葉を貰ったのは、松竹に長く在籍していて、その後独立して会社を開き、『幸福の黄色いハンカチ』をプロデュースした方です。
ボクのデビュー作をプロデュースしてもらいました。

要するに企画が成立するというのは、それだけ大変だということです。
プロヂューサーは何社に声をかけたか知らないですが、『おくりびと』は地味な作品にもかかわらず、奇跡的にテレビ局のTBS映画部が興味を示してくれました。

映画なのにテレビ局?

今に始まった事ではないですが、商業映画製作というのは、『製作委員会システム』が主流になっています。
どういうものかと簡単に言うと、『リスク分散システム』です。

先ほども書いたように、映画製作はお金がかかります。
そして、映画の企画が練りに練られたものだとしても、ヒットするしないは誰にもわかりません。

つまり、ヒットするかわからないものに対して、一社で制作費を負担するにはあまりにもリスクが高いのです。

ここで多くの会社から出資を得ることで、ヒットしなかった時の負担を減らそうという考えになるわけです。

テレビ局が参加するしないとでは宣伝効果という点で大きな違いが出て来ます。
テレビ局は、自社作品ですから当然宣伝に力が入りますよね。

1日テレビを見ていたら、新作映画の予告がしつこく流れる、なんてことあるでしょ?あれです。

めでたくTBSが参加して来たことで、本木さんの企画はぐっと現実味と、加速度を増して作品完成へと向かっていきます。

ちょっとだけこぼれ話 「テレビの影響力」

テレビの仕事をしているボクの友人は「似たような企画や、テレビショッピングばかりで、もう民放テレビの時代は終わっている」なんて嘆きます。

それでもみんな、新聞は読まなくてもテレビは見ます。
だから『製作委員会』にとって、テレビ局の参加は必至になるわけです。

監督と脚本家は?

あれ?と思った方はいますでしょうか?
実はですね、この時点ではまだ監督や脚本家は決まっていなかったのです。

あれあれ?映画って監督やプロデューサーが企画するんじゃないの?
いえいえ、最初にも言いましたよ〜。

『映画を作りたいと思っている誰かが、それを「面白い!」と思えることが大切です。』ってね。

『おくりびと』の監督と脚本家ってどんな人?

細かい経緯は知りませんが、脚本家に関しては本木さんのこだわりがあったみたいです。

当時、映画の脚本を書いたことがなかった放送作家の小山薫堂さんに、本木さん本人が依頼しました。
本木さんは、小山さんのセンスがとても好きだったようです。
小山薫堂さんは、『料理の鉄人』や、ご当地キャラの『くまモン』の仕掛け人で有名な方です。

監督は、TBSのプロデューサーが、東野圭吾原作の映画『秘密』で一緒に仕事をした滝田洋二郎監督を大プッシュしたそうです。

滝田さんは、インテリジェンスもあり繊細でありながら豪放磊落(気持ちが大きく快活で、小さなことにこだわらないこと)といった相反する魅力を兼ね備えた感じの方とボクは受け止めています。

滝田さんは、あまりにも地味な『おくりびと』企画に最初は躊躇したみたいです。

それが何故引き受けることになったかは聞き逃してしまいましたが、まぁ、兎にも角にも引き受けたわけです。

記憶が曖昧ですが、確か滝田洋二郎監督がこの企画に参加した時には、脚本の初稿が上がっていたはずです。
ボクが参加するのはまだ先のことです。

こぼれ話 「作品の色について」

映画というのは、参加するスタッフによって、作品の行方は大きく左右されます。

嫌な言い方かもしれませんが、パワーバランスのようなものは確実あり、作品に対しての影響は、このパワーバランスによって違って来ます。

どういうことかというと、プロデューサーの力が強ければ、プロデューサー色が強くなるし、監督の力が強ければ、監督色が強くなるといった具合です。

「出来上がった映画は監督のもの」とはよく聞かれる台詞ですが、確かにそれは否めません。
実は、パワーバランスが作品に影響している事実もまた否めません。

言い方が適切かどうかわかりませんが、ボク個人の感覚としては「映画の世界も弱肉強食である」という気がしています。

おくりびとのパワーバランスは?
話は少し飛びますが、撮影に入る前、脚本づくりの段階で、ある出来事がありました。
それはのちの米国アカデミー賞授賞祝賀パーティーでの、本木さんの挨拶で知ったんですが、彼はスピーチでこう言ってしまた。

「もともと私の企画だったので、思い入れが強く、脚本を作ってる段階でしつこく監督にああしたいこうしたいと言っていたら、監督が、『監督は俺なんだ!シナリオは俺が決める!!』と怒られました」。

「その時は、私は畜生このクソオヤジと思いましたが、今こうなってみると、ああ、監督が正しかったんだ、と(ちらっと滝田監督を見て)監督、ごめんなさい!ごちゃごちゃ言って!」

つまり滝田監督のパワーが本木さんのパワーを上回っていた。
ということになるのかな?と思っています。

もちろん、本木さんの名誉のために言いますが、本木さんだって作品に対して充分な熱意があったし、監督と互角のパワーを持ち合わせています。
だけど彼はその瞬間、きっと滝田監督を信用して身を委ねたんだろうと思います。

脚本は何度も書き直される

脚本第一稿を手にした滝田監督は、シナリオハンティング(脚本作りのための素材集め)に出かけます。
その中で、徐々に作品に対するイメージを固めていきます。
固まったイメージを元に脚本家と打ち合わせをし、第二稿を書きます。

ボクがこの作品に参加したのは、第二稿が上がった段階でした。

そうそう忘れちゃいけないことがあった!
映画というのは、何度もなんども脚本を書きなおします。

結論から言えば、『おくりびと』に関して言えば、第八稿まで書き直したかな?と記憶してます。
それで一応、決定稿となるわけですが、撮影に入ってからも脚本の直しは続きます。

実際に俳優が動いてみたらなんか違和感がある。
生身の人間が喋ってみたら違和感があるなどが大きな理由です。

やはり脚本というのは机上で書いてますからね。
想像力で補えない部分もどうしても出てきます。

脚本の書きなおしは、撮影が済んでフィルムをつなぎ合わせる編集時にも続きます。
シーンを入れ替えてみたり、シーンを短くしてみたり。

監督の脚本との格闘は作品完成時まで続くのです。

みなさん、きっと脚本が完成してからいろいろ準備をするのだろうと思っている方も多いと思いますが、そんなこともないのです。
実情は様々な準備をしながら、同時進行で脚本も完成に近づけていくのです。

↓「おくりびと」の台本

脚本作り以外にも色々ある撮影準備

撮影にはスタッフ、俳優はもちろん必要ですが、忘れてはならないのがロケ現場です。
ボクがやっていたチーフ助監督という仕事は、製作部のスタッフと一緒にロケ現場を探す仕事もやります。

実は、ロケ現場探しをしながらも脚本作りは続いていました。
結構ギリギリまで。
一週後にはクランクインだぞーって時までです。

滝田監督は、脚本打ち合わせには、いつも助監督(ボク、セカンド助監督)を立ち会わせました。
意見を言わせるためにです。

ロケ現場を探しながら、現地エキストラの交渉をしながら、スケジュールを書きながら……。
撮影準備だけでも結構ハードですが、そんな中でも脚本に対して意見を言わなければならないというのはかなりの激務でした。
でも、滝田監督との脚本打ち合わせは光栄だったし、楽しいものでした。

ちょっとだけこぼれ話 「脚本家以外が脚本を書くことも」

実は、滝田監督の意に基づき、ボクとセカンド助監督(2015年に公開された映画『Orange』の監督)はある時、二人で共謀し分担して脚本直しを始めました。(脚本のクレジットには名前がありません)

脚本家の方を無視したわけではなかったのですが、あまりにも「直し」が多くちょっと嫌気がさしてきたように見えたからです。

なぜそんなことをしたかって?そりゃー、撮影に脚本がなかったらシャレになんないでしょ?だからです。
そんな危機感から、助監督的職業意識の一端で書きました。

結局、八割書いたところで、あとは脚本家の方に委ねたのですけどね。
その後返ってきた脚本は……これ以上はあまり詳しくお話しできません!
でも、僕が書いた台詞は、まぁ、ありますよ。
残ってました。

「どこを書いたの?」と聞かれても、それは……言えません!(笑)
ひとつだけ言えるのは、脚本家・小山薫堂さんは、我々が書いたものをちゃんと咀嚼し、リライトしてくれた、とってもプロで立派な方だということだけです。

かくも映画づくりというのはこんなこともあるよー。
ってことです。

映画は作り手の想いが反映される

今回は『映画ってこうやって作られる!』ということで、主に『企画成立から脚本づくり』ということにスポット当てて書かせていただきました。

本当はまだまだ書ききれてないことがたくさんありますが、最後にどうしても書きたいことがひとつ。

実は『おくりびと』って作品は、あまり商売を意識して作られませんでした。

だけど逆にそれが功を奏したのか、スタッフ全員が純粋に単純にいい作品を作りたいと思えた稀有な作品だと思っています。
こういう作品って実はありそうであまりないと思います。

もちろん、どんな作品でも、映画づくりに携わるスタッフ、キャストは面白くない作品を作りたいなんて思っていません。

だけどなんて言うのかなー、作っている時は気づかなかったのですが、本当にスタッフの熱とかキャストの熱が写っている作品なんだなーと思っています。

ボクはかねがね、スタッフやキャストが楽しんで作った作品は、見えない空気感が必ず観客に伝わると信じています。

すごく抽象的なまとめになって申し訳ないなーと思うのですが、結局、『映画ってスタッフ、キャストの熱によって作られる!』ってことでしょう。

これから皆さんは数々の作品を鑑賞されることでしょう。
その時、少しでも結構です。
「この作品はみんなが楽しんで作ったのかなー」と思ってみてください。

そうしたら、もしかしたらちょっとはスタッフの気持ちもわかって、作品の見方も変わるかもしれません。

また、そう思ってくれる方がいると思えば作る側も張り切ると思います。
見えない思いこそパワーです!それがひいては日本映画のさらなる活性化を招くと思うのです。

それでは、はなはだ中途半端になってしまいましたが、ここらで、みなさま、ごきげんよう!

あー、あれもこれも話したーーーい!!(笑)

 

ちょっとだけこぼれ話 「タイトルに『The Movie』」

映画は、小説が原作だったり、漫画が原作だったり、当然オリジナル作品もあります。

ここ最近の流行としては、テレビの連続ドラマが『The Movie』とか言ってスクリーンで上映されることもありますね。

ボク個人としては、「映画なのはわかっているのに『The Movie』とはなにごとか!?客を馬鹿にしているのか!?」と思っていますが、映画も商売。

テレビドラマとは違うぞ!スケールが大きいんだぞ!という差別化を狙ったアピールもあるでしょうし、その他にも色々な思惑があってタイトルに『The Movie』って冠を盛り込むんでしょうね。

致し方ないですねー。

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この記事を書いた人

sela
selaなまけもの
ときどき映画を撮ったりしています。だけど基本なまけものです。あんまり仕事をしたくありません。

最近、ドローンを買いました。
だけど仕事とは関係ありません。あくまも趣味です!
「ドローンを買った」と人に言うとみんなが口を揃えたように「盗撮するんだろ!?」と言いますが、そんなことは決してありません!

猫が好きです。短足猫のマンチカンといわゆる雑種の日本猫、2匹飼ってます。
名前はチャカピンとキーちゃんです。
とても仲がいいです。

YouTubeとfacebookにアクセスされたら、本名バレバレです。
だからアクセスしないでーーー!(笑)

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