あらすじ

大学院に通う25歳の珠(門脇麦)は、19歳のときに遭遇したある出来事をきっかけに長い間絶望のふちをさまよっていたが、最近ようやくその苦悩から解放された。

彼女は一緒に住んでいる恋人卓也(菅田将暉)と、なるべくもめ事にならないよう、気を使いながら生活していた。

あるとき、珠は恩師の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材を提示され……。

※ここから下記はネタバレを含みます

Thank you as always.Please spend a good time in the movie.
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感想&レビュー

生徒に尾行を勧める哲学教授、見ず知らずの人物を尾行する生徒、尾行されるエリート編集者。
物語の登場人物として別段異常な性格や設定を抱えているわけではないにも関わらず、『尾行』というテーマを通して登場人物の誰もが異様な人物に見えてきます。

 

ドキュメンタリー風の演出を目指したという監督の狙いどおりに、手持ちカメラで撮影された尾行シーンには(多少カメラ酔いしますが)生々しさがあり、主人公の珠に感情移入して観ることができれば実際に尾行をしているような臨場感を味わうことができます。
映画の都合上、尾行される編集者と主人公を同じフレームに収めなくてはいけないので不自然なほど近い距離から尾行しているのはご愛嬌でしょう。

 

『二重生活』というタイトルですが、尾行される編集者の表の顔と裏の顔というだけではなく、尾行者である珠の普通の大学生と尾行者という二重生活、多くは描かれない大学教授の奇妙な指導者と苦悩する男という二重生活のように、すべての人間に二面性があることを比喩的に描いています。
 

それはゴシップ雑誌的な暴露欲求に基づいたものではなく、抱えきれない秘密は誰かに暴かれることで救われるという、本人も気づいてない二面性の裏側が求める潜在的な承認欲求を表現しています。
知らない人物を尾行するというシンプルな物語を通して描かれているのは自分と他者の深層に触れることで生まれる責任や恐怖、救いであり、最後に珠が見せる笑顔の意味はそういった様々なものが混交したものでした。
 

このデリケートで複雑な作品を作るにあたり、監督の岸善行は各年代の実力派俳優を勢揃いさせ、それぞれが持ち味を発揮しています。
とくに主演の門脇麦は濡れ場も含めて過不足ない絶妙なバランスで自然体を保った演技をみせており、作品に生々しさを与えた最大の功労者です。
 

今作がドキュメント作品のような生々しさを実現していることは、つまり映画を観賞している観客もまた、尾行者として珠達の姿を追いけけることを意味しており、メタ的な意味で登場人物のひとりに仕立てあげられます。
非常に特殊な作品ですが、昨今の邦画に溢れる明朗快活なエンターテイメント作品に食傷気味な方にはお薦めの作品でしょう。